銀行が対応しにくいオーストラリア不動産開発のハンズオン融資で急成長小口投資家向けの募集も開始へ

オーストラリアの不動産開発業者は特にリーマンショック後に銀行融資をなかなか受けられない現実がある。銀行が不動産開発に対する融資を絞り込んでいることが背景にある。しかし不動産開発は経済成長と切っても切れないものだ。人が住む場所、人が働く場所、いくらテクノロジーが進化しているとはいえ、人口増加に加え建物に永久性が担保されない以上、常識で考えても新しい不動産開発は必要だし、よって資金ニーズが常に存在する。このようにオーストラリアの不動産開発マーケットには、ビジネスチャンスとなる「差」が生じ始めているのだ。そこに目を付けて、オーストラリアの不動産開発に対するハンズオンレンディングという手法で急成長している会社がある。メルボルンに本社を置くバナーアセットマネジメントだ。当社は今回、バナーグループCEOアンドリュー・ターナー氏にインタビューを実施した。

 

トラックレコードでわかるその目利きの素晴らしさ

過去のトラックレコードは将来のそれを保証するものではないとはいえ、金融サービスの話はトラックレコードから入るのが最もわかりやすい指標のひとつだ。バナーアセットマネジメント(以下BAM)のトラックレコード(下記参照)を見れば、BAMが安定的なリターンを出していることが手に取るようにおわかりいただけるだろう。

表1 マスターファンドのトラックレコード(2010年7月から月次)

グラフ1 2010年7月からのマスターファンドの複利成長曲線
(元本を1,000豪ドルとした場合)

「入念なデューディリジェンスを経たものにしか投資しない。我々は不動産開発に潜むリスクを熟知しているからだ」とバナーグループCEOアンドリュー・ターナー氏(以下アンディ氏)は語る。
アンディ氏は続ける。
「我々はオーストラリアの銀行が融資に制約を設けている、法人向け不動産融資を手掛けている。我々が相対的に高いリターンを投資家にもたらしている理由は、まさにここにある。しかもオーストラリアは貸手保護の法的な枠組みもある比較的安全なマーケットだ。ファンドには私のお金や株主のお金も相当額入っている。それはすなわち投資家のリスクは直接我々のリスクでもあるということを意味する。だから我々は、あらゆる融資機会に対する徹底的なデューディリジェンスと融資後の定期的なプロジェクトチェックや外部アドバイザーのレポートなど主観的、客観的評価を常に欠かさない。ディールメーカーでもあり、金融機関のような役目も果たす、ファンドマネジャーと考えてもらえればいいだろう」。
「我々はすべての案件に融資実行するわけではなく、我々がとれるリスクの範囲内で完全に事業が理解できるケースにのみ融資しているだけなのだ。だから、チャンスが生じた時に我々が最初に自問自答することは〝融資した資金が確実に戻ってくる案件か否か〟ということなのだ。我々は我々に適した案件を選ぶことができるし、月に10案件のデューディリジェンスを行い、ディールが1案件のみ、ということもしばしばだ」。
魅力的に聞こえる話はたくさんあるのだろう。が、BAMは自らの哲学に合致しないものには何もしない。一方で「できることを言い、言ったことは必ずやる」という良い評判を築き上げることに成功しているのだ。
過去6年間続く年平均14%のリターンは、安定志向の強い日本の個人投資家にとって大いに魅力的に映るだろう。その大きな要因はオーストラリア不動産マーケットで生じている「差」にある。「決定的に不足している資金提供と需要が途切れない資金ニーズの差」だ。
「日本の郵便貯金は年7%の複利で10年経つと倍になるんだ、と母が喜んでいた時代がありましたね」と私が日本の昔話を話した際に、「もっといいんだよ」と見せてくれたのが左のトラックレコード表だった。何と一月たりともマイナスになっていない。

 

通常の銀行の融資といったい何が違うのか?

聞けば聞くほどごく普通に聞こえるBAMのビジネスだが、現在のオーストラリア不動産市場における資金の需要供給バランスの差に目を付けて前述のような安定的なリターンを投資家にもたらしているユニークなビジネスであることは確かだ。
いわゆるお金の流れに関しては、銀行が不動産開発業者に融資する形とまったく変わらない。が、BAMのケースでは投下資本の安全性と確実なリターンを確保できるディールにしか関わらないことが大きな特徴に思える。一般的にもよくある話だが、この当たり前に聞こえる話を当たり前に実行することは極めて難しいことは読者の皆様にもおわかりいただけるだろう。しかも融資対象を彼らが最も得意とするオーストラリア不動産開発のみに絞りこんでいることも戦略的で、玄人好みといえよう。

図1 一般的な銀行の融資イメージ

図2 Banner Asset Managementの投資イメージ

(図1、図2をクリックすると拡大します)

 

日本の個人投資家にも門戸を開放した利回り重視ファンド

バナーグループが提供するファンドはおおまかに下図のような構造となっている。

図3 ホールセールファンドのイメージ図

図4 マスターファンドのイメージ図

(図3、図4をクリックすると拡大します)

図3と図4は、投資先がひとつか、複数の投資先があるか、など投資手法による違いがあるが、主に大口の個人投資家や機関投資家向けのファンドで、2016年までのバナーグループの主要事業となっていたファンドだ。もちろん今でも主要事業であることに何ら変わりはない。
多くの機関投資家向けファンドに参加するには500万ドル以上のイニシャル投資が必要なことが多いとよく聞くが、私が注目したいのは図4のリテールファンドで、主要事業をコアに据えながらも、個人投資家に少額投資の門戸を開放した点にある。ユニークな投資スタイルで投資効率を高める海外ファンドはなかなかアクセスしにくいのが実態のようだが、BAMが募集する、オーストラリア不動産開発に対する融資組成のためのファンドが、日本の個人投資家の少額投資参加を可能にしたのだ。
「2万5000豪ドルから投資が可能な枠組みを創り、2017年初頭から募集を開始しました(バナージャパン代表磯野氏)」。
資産運用はどこまでいっても自己責任。この激動の時代に生きる我々に求められるのはこのようなグローバルな発想に基づく投資機会だろう。投資にはリスクはあるとはいえ、リターンを求めるなら日本という枠組みに捉われないことが重要なのは釈迦に説法だ。
一方で、前述した私の母親世代の郵便貯金より相対的リスクは高いとは言えるものの、「徹底的なリスクヘッジそのものが我々のトッププライオリティだ。世界が金融危機でもリターンが安定しているトラックレコードが示す事実をもう一度みてもらいたい」。とバナーグループ ディレクター トレバー・レイノルズ氏は語る。
まさに日本人が好む投資スタイルそのものなのだ。

 

BAMオフィス21階のテラスにて

BAMでは、たまにワインを飲んで語り合うパーティをテラスで行っているそうで、私も誘われてメルボルンの金融街を見下ろす絶景を眼下にチームの方々と杯を交わしたが、弁護士や税理士の資格を持った人がチームに参加していることにまずは驚いた。5人のBAMの株主のうち4人が東京で勤務経験があり、東京で意気投合しBAMをオーストラリアで立ち上げることになったことを聞いて、ビジネスでも「縁は異なもの味なもの」ってあるんだな、と思ったものだ。
最後に読者への一言を頼むと、「我々は日本やアジアの投資家にも門戸を開放した。とても簡単に言えば我々は投資機会を提供するマッチメーカーのようなものだ。我々の辞書に投機という文字はない。我々の哲学は、手堅く投資機会を選択し、念入りなデューディリジェンスを行い、優先抵当権も確保し、さらに最低月1回の融資先レビューを欠かさない、言わば当たり前のことを当たり前に実施する、という単純な哲学だ」。
メルボルンでBAMの少人数のプロフェッショナルチームに出会えたことは私にとってもいい経験になったし、BAMのチームでしかできないすごい仕事にワクワクしたものだ。
繰り返しになるが、投資、特に海外投資には常にリスクがついてまわる。これは誰しも分かることだ。そのリスク幅を極力抑えるためには投資に関する情報収集はもちろんのこと、投資後の推移もフォローしなくてはならない。その一方で、資産を円だけで保有することはもはや「やってはならない」類の話となっている。後者のリスクはとても大きく、結局はダイバーシフィケーション、つまり、分散して資産を運用することがリスク低減の唯一の方法だ、と私もこの何年かで痛感した。
ではどうするか? 自分の資産は自分で保全するという鉄則に基づいて言えば、特に海外投資に関して言えば、今回取材したBAMのような日本人好みの哲学に乗ってみるのはベストに近い方法論だろう。彼らの投資する案件は元来個人投資家がなかなか参加できるレベルのものではないが、そこに日本円で数百万円から参加できポートフォリオに組み込める機会を提供し始めたという点で日本の個人投資家向きであるのは間違いない。
小さな手堅い銀行のような仕組み、しかも少人数スペシャリスト集団の目利きによって提供される金融サービスといえるこの仕組みは、知れば知るほど稀有なものだ。安定感抜群のトラックレコードが示すこのファンドに2万5000豪ドルから参加できることもとても日本人投資家に適していると思う。